カレンダー
01 | 2025/02 | 03 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ||||||
2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
リンク
アクセス解析
2008/08/12 (Tue)
「罰ゲーム、ですか?」
どうやら、本当に図書館戦争本を出せそうなので、サンプルなどあげてみます。
ありがちな…いえ、出尽くしたネタでごめんなさい。
こっちのサイト、本当に何もアップ出来てないから…(汗)
* * * * *
ありがちな…いえ、出尽くしたネタでごめんなさい。
こっちのサイト、本当に何もアップ出来てないから…(汗)
* * * * *
天気は晴天。気候は穏やか。
ひんやりとした風が頬を撫でるけれど、繋がれた手から伝わる体温が、そんな寒さを吹き飛ばしてくれる。
郁の手を引いて一歩先を歩く精悍な背中に、郁の心もほんわかと温かくなった。
あの背中の逞しさを知っている。そして、繋がれた手の優しさも。
…って。いや、ちょっと待てあたし。こんな路上で、なに思い耽っちゃってるのっ!
つい先程仲直りしたばかりで、自分のワガママの所為だとはいえ一ヶ月近く色々とお預けなのだ。キスどころかこんな風に手を繋ぐのだって久しぶりで。
ちょっとくらい、浮かれても仕方ないよね?
そう自分を慰めてみるが、実際はちょっとどころじゃない。だって…。
「どうした?」
「や、や! なんでもないです。なんでもないですから! お願いですから、こっち向かないでください!」
かっと真っ赤になった顔を見られたくない。
今更だけど、もう何もかも見せ合っちゃって、つい先日まで大喧嘩しちゃったけどそれでも今はプロポーズされちゃった後だったとしても、恥ずかしいものは恥ずかしいんだから仕方ないじゃない!
「変なやつ」
ちらりと郁に視線を向けただけでこちらを向くのを勘弁してくれた堂上にほっとしていたら、繋がれた手をきゅっと強く握られた。
いやーっ! そんなフェイントしないでっ。ますます心臓に悪いから!
全身が硬直したのは、もう勘弁して欲しい。
顔どころか、指先までも真っ赤に染めた郁の顔が見えたかのように、堂上が小さく笑ったのが伝わってきた。
その余裕が悔しいやら、嬉しいやら。ごちゃごちゃの頭ではもう判別できなくなっていた。
「罰ゲーム、ですか?」
堂上から提案された案件を、郁は少し自信がなさそうに復唱した。
「そうだ。そうでもしないとお前、いつまでも俺の名前、呼べないだろうが」
呆れたように告げられ、郁はぐっと息を飲んだ。
いや、確かにそうだけど!
「で、でも。それって罰ゲームにならないんじゃ…」
恐る恐る見上げた堂上は、どこか楽しそうな笑みを浮かべている。
くそー。さっきまではあんなに緊張していた癖に、なによ余裕な表情しちゃってさ。
喧嘩の舞台となったハーブカフェで仕切り直しとそれ以上の『提案』をしていた時の仏頂面とは大違いだ。それもまあ、照れた時の癖だと、もう言われなくても知っている。自分だけに見せてくれる『恋人』の顔だった。
堂上から示された『提案』を二つ返事で受け入れた後、二人揃って婚約指輪の下見に行き、ついでにと喧嘩の種になった物件も見に行った帰りだった。
あらためて物件を目にすると、あんなにも反発していた気持ちが嘘のように治まっていることに気がついた。もっと一緒にいたいのは本当。でも、堂上はもっと先の事まで考えてくれていたのだ。
ほんのりと心が温かくなる。いや、先程までは、嵐に直撃されたようにパニックに陥っていたのだが。
プロポーズされたからだろうか。それとも…。
郁はちらりと自分の右手を見た。
逞しい手に握られた手は、なんだか自分のものだとは思えない位に小さく見えて、女の子の手みたいだ。
いや、私だって女なんだけどね。
普段から戦闘職種に就いているせいか、はたまた身長のせいか。デメリット面などでは常に痛感しているが、郁は自分を女として認識する事が少ない。行動を共にする事の多い柴崎は、女の子の標準として考えるのには、少々…いや、かなり上をいっていて、自分との比較をしようとも思わない。ここまで自分と正反対だと悔しくもならないほど。
柴崎が柴崎である為にかけるいくつもの手間を、郁はちゃんと知っている。柴崎が美人で聡明であるのは、彼女自身がそう在りたいと努力しているからだ。
郁だってそうだ。他の誰に何を言われても気にしないが、堂上の前では綺麗でいたい。少しでも可愛いと思われたいと願うのは、恋人として間違ってはいないはずだ。
前よりは、ちょっとはマシになったよね?
こうやって、好きな相手と一緒にいる自分は、本当に女の子なんだと感心してしまうほどに。
プロポーズされた後に堂上に指摘されたことは、「俺はいつまでお前の教官だ?」であり、しかし長年染みついたそれは、おいそれと抜けることが出来ない。
意識しないと名前で呼ぶことの出来ない郁に、堂上が提案してきた案件はこうだ。
『プライベートで「教官」と呼ぶ度にキス一回』
最初は何の冗談かと思ったが、どうやら本気らしい事に気がつき、郁は真っ赤になって俯いた。
「なんかそれじゃあ…」
言葉をくぐもらせた郁に、堂上が先を促す。
「…私ばっかり、嬉しいみたい」
「―っ! …お前、不意打ちはよせ」
くしゃりと、堂上の手が頭を撫でる。いつもより少し力強いそれに、郁は頭に置かれた手に視線を向け、続いて堂上を見返す。と、堂上の苦虫を潰したような横顔を直面する。
「堂上教官?」
「こんなところで可愛い事を言うな。…抱きしめたくなるだろうが」
PR
この記事にコメントする